小西さんのような経営者を、私は見たことがない。
彼の秘書が、「1週間のスケジュールを見たら、ぎっしりと予定が詰まりすぎていてみんな引くと思う」と言うほど多忙な人だが、小西さんはその忙しさを微塵も見せない。いつも楽しそうに話をしたり、遊んだりしているように見える。
そのような「デキる」経営者はたくさんいるだろうが、小西さんには、愛すべき「抜け目」のようなものがある。びっくりするほど漢字が読めなかったり、パソコン仕事の途中で眠りこけてしまい、新調したばかりのメガネを歪ませてしまったり、「千と千尋の神隠し」のあらすじを語りながら、想像が膨らみすぎて泣きだしたり。
「デキる人」と向かい合ったときの緊張感はまるでなく、気が付けば心を許しているのだから、「小西さんだから」という理由で仕事の依頼が相次ぐのも頷ける。でも…彼は優れた営業マンであるだけでなく、優れた「組織のトップ」でもあるように見える。メンバーが生き生きと、仕事をしているからだ。
いいチームになるワケ
スバキリさんこと小西光治さん率いる「スバキリ一味」は、クラウドファンディングにチャレンジしたいクライアントを、取材・ライティング・デザイン・申請・フォロー・サポート…分業制でお手伝いをするチームだ。メンバーは増え、今では全国に35名が点在する。
ユニークなのは、小西さんとメンバーとの関係性。古株のメンバーたちは、小西さんに面と向かって堂々と“からかう”とか“ディスる”と呼べるような言葉を投げる。かと思うと、本人のいないところでは、絶大な信頼や尊敬の念を表す熱い言葉を口にする。その様子は、多くの企業とは真逆の構図なのではないかと不思議な気持ちになる。
「スバキリ一味」のメンバーは、業務委託のかたちで案件ごとに報酬を受け取る。しかしながら、もっとクライアントに満足してもらうには?と「業務外」とも言える自主的なミーティングがセクションごとに開催されることも珍しくない。
「僕が寝ている間に…報酬が発生するわけでもないのに、ありがたいですねぇ」と、小西さんは細い目をもっと細める。
どうしてこんなチームになるのだろう。独自の組織論があるのだろうか。
「僕が過去に一回失敗したからやないですか?自分の限界を思い知った経験があるんです。仕事を手放して任せたら…みんな自分で考えて、自分でやってくれるんですよ。」
過去、勤めていたファンド会社で「上司」として振る舞っていたときの話をしてくれた。
「自分って天才」と思っていた頃
大学卒業後就職したファンド会社では、全国トップの営業成績を叩きだし、ファンドマネージャーとして希望していた資産運用を任されるように。その成績もよかったという。
しかし、何事も人に任せるのが怖く、部下には「上から」指示ばかり。部下がやったことも自ら全部チェックをしていたというのだ。
「で、結局抱えきれなくなって、過労で倒れてしまいました。独立して、自分の会社を持ってからも、周りの人はみんな敵だと思っていたし、嘘をつかれたら嫌だから、小さなことでもすぐに契約書を交わしていました。契約でがんじがらめにしないと怖かったんです。」
たったひとりで戦ってきたファンド時代は、悲しい幕切れを迎える。29歳で独立して2年後、小西さんの会社はリーマンショックのあおりを受け、借金2000万円を背負って倒産してしまったのだ。
「優しい世界」のビジネス
そこから小西さんは5年間1日も休まず働き、2000万円の借金を完済。その後数年間はシェアハウス運営の収入等で生活費をまかない、1日の大半はゲームをして過ごした。借金を返し終わった安堵感と、離婚のショックで抜け殻のようになり、仕事をする意欲がわかなかったのだという。
そんなある日、キングコング西野さんの著書『革命のファンファーレ』を読んだ小西さんは、無性に何かにチャレンジしたくなり、オンラインサロンに入会、素晴らしい切り絵作家(スバキリ)になろうと志す。
そこに待ち受けていたのは、弱肉強食のファンドの世界とは全く違う、今まで経験したことのない「優しい世界」だった、と小西さんは言う。競争ではなく応援しあうことで成り立つ心地よいビジネスの世界…そこでスバキリ一味の初期メンバーたちと出会うことになる。
当初は、切り絵ビジネスを拡大するために集められたメンバーたちだったが、小西さんが個人的に始めたクラウドファンディングプロデュースの依頼が立て込み、一味のメンバーにライティングやデザインを手伝ってもらったのが、今のスバキリ一味のはじまりだ。
メンバーたちの活動を応援したい、クライアントの活動を応援したい、そう思って活動しているうちにメンバーも増え、依頼の件数も増えていった。
「助けてもらう」才能
取材中、小西さんの口から何度も「僕はみんなに助けてもらっている」という言葉が出てきたが、小西さんは受動的にただ助けてもらっているのではなく、意志をもって繋がった人たちから結果的に助けてもらっている。
「秀吉も、本人は武術がすぐれていたわけではないと思う。でも天下をとれたのは、秀吉のために戦う仲間を集められたから。僕は“クラウドファンディングのシンボルになる”って言っていますが、自分から声を掛け、助けてくれる仲間を集められないようでは、シンボルにはなれないでしょうね。」
この言葉を聞いて、今スバキリ商店の業績がよく、スバキリ一味が一丸となって仕事をできている理由が分かった気がした。
クラウドファンディングは、「支援を集める=自分の仲間を募る」仕組みだ。その天下を取ることを目指す小西さんは、「仲間を増やす」を地でいく人なのだ。生き方と仕事がリンクした人は、とてつもなく強い。
「今、リアルに今までの人生の中でいちばん楽しい。行けるところまで行ってみたい」と目尻をさらに下げて言う小西さんは、ゲームに夢中になる小学生のようだ。
“敵”に囲まれていると思い込んでいた世界から、周りの人が助けてくれると感じる“優しい世界”へ。険しい道を乗り越えてたどり着いた世界で、小西さんは生き生きと暮らしている。
取材・執筆―石原智子