フィットネスに「別にええやん」の風を

メンバー紹介

ライター 白銀 肇 (しろかね はじめ)(6)

フィットネス芸人NORIさんこと松本典昭さんは、加古川にあるフィットネスクラブ「加古川フィットネスベリーベリー」を運営する傍ら、スバキリ一味に「パフォーマー」という肩書きで所属する。クラウドファンディングをプロデュースするユニットのパフォーマー?ピンとこない人も多いだろうが、NORIさんがいることで、スバキリ一味はとてもスバキリ一味らしくなっている。

YouTube「スバキリクラウドファンディング」では、演者として小西団長を盛り上げ、

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ミーティングで元気がないメンバーがいたらギャグで笑わせ、

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スバキリ一味のキャラクターの着ぐるみは、NORIさんのサイズで作られる。

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NORIさんが一味にいなかったらこの役割は誰がやっていたのだろう?と考えてみるけれども全く思い浮かばない。

「替えのきかない存在」になれる人は“勝ち”だ。NORIさんのこれまでの人生は、「必要とされる人」がどう形成されていくのかを、私たちに教えてくれる。

自分が好きなことをやろう

現在、“フィットネス芸人”として活動するNORIさんだが、そこに着地するには、大学を卒業してから実に16年の時間を要した。

大学を卒業して、「何も考えずに就職した」会社で意志を持たずに働くのが辛く、3ヶ月で辞めてしまったNORIさん。生活していくためにと別の会社に就職するも、同じように感じて1ヶ月で辞めてしまう。

2度同じことを繰り返して、やっぱり自分が好きなことをやろうと決めて向かったのは、格闘技道場だった。ずっと好きで見てきた格闘技―全くの未経験だったが、「自分もやってみたい、強くなりたい」と思い入門。半年で試合に出場し、戦うことは楽しかったが、鼻の骨が折れるケガを負った。

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「バイトに支障が出るな…」
ケガをしたときに頭をよぎったのが、道場に入門すると同時に「食べていくためのアルバイト」として始めたフィットネスジムでのバイトのことだった。

完全に個人スポーツである格闘技と比べて、自分が健康になるだけでなく、レッスンを受けてくれる人が健康になったり、笑ったりしてくれるという魅力がフィットネスにはあった。フィットネスの方が楽しくなり、NORIさんの足は徐々に道場から遠のいていった。

フィットネスジムのバイトは受付からスタートしたが、その鍛えた体ゆえ、早々に「トレーナーをやってみないか」と声がかかり、とんとん拍子にレッスンも受け持つようになった。レッスンはエンタメ要素が強く、いかに楽しくやってもらえるか、というところも性に合っていた。楽しく、順調にキャリアアップしていく状況に、「これは自分の天職かもしれない」と感じたという。

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小さい頃からお笑いも大好きで、クラスのムードメーカーだったというNORIさん。身体を鍛えることと、人を楽しませること。彼にとって「好きで、実際にやってきた」ふたつの要素が融合したのがフィットネスだったのだ。

「やってみたい」と新しい世界に飛び込む勇気と、変わっていく自分の気持ちに従う正直さがあれば、人は、もっともっと自分らしい方向へと進化してくことができるのだ。

自分の表現は自分で決める

フィットネスジムに就職してからは、姫路・大阪・東京と転勤。ベテランの域に入ると、レッスンは楽しくやりがいがあったものの、会社員として働くことに窮屈さも感じはじめていた。

そんなときに、父が他界。姫路の実家で母がひとりになってしまうことを案じると同時に、現状に満足しきれていない自分にとって、これは運命だと感じた。「自分の活動場所と表現方法は自分で決める」と腹をくくり、会社員を辞めて、長期間の単身赴任から姫路に戻った。

フリーで活動をはじめる際に「インストラクターは山ほどいるから、みんなと同じ肩書だと面白くない」と考えたNORIさんは、会社員時代からM-1グランプリなどお笑いコンテストに出場していた経歴を生かし、“フィットネス芸人”と名乗ることを決めた。

複数のジムでのレッスンやパーソナルトレーニング、イベントのMCや余興…少しずつ、フィットネス芸人としての活動を広げていった。

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「別にええやん」の世界

フィットネス芸人として活動をはじめて少し経った頃、エンタメの勉強をしようと参加したDJわいざんのイベント「黒夢night!」で、ひとつの出会いがあった。

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そこでひときわ目立っていたのが、のちにスバキリ一味の団長となる、小西光治であった。

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黒夢の曲ばかりが流れる場で、黒夢とは全く関係ないスターウォーズのライトセイバーを振り回し、盛り上げるその姿に、NORIさんは「すごい人おるなぁ」と衝撃を受けたという。

このときに小西さんと話した内容も、NORIさんにとっては非常に印象的だった。

NORIさん:「僕、黒夢さんのこと、あんまり詳しくないけど…このイベントに参加していても大丈夫ですかね?」
小西さん:「大丈夫です!僕も全く知らないから!」

フィットネス業界は、基本的に体育会系の世界で、ルールが重んじられることが多い。過去に、自分のやり方でフィットネスのよさを広げようとすればするほど、組織内部の「ねばならない」と対立したこともあった。そんなNORIさんにとって、小西さんのような人たちが生きる「別にええやん」が大丈夫な世界は衝撃だったのだ。

体育会系のノリに少し疲れていたNORIさんは、この世界観をフィットネスにも取り入れたいと思うようになった。

レッスン時間に5分くらい遅刻してもええやん。
靴履いてても、裸足でも、どっちでもええやん。
フィットネスジムに、運動と関係ないカレーとかマスキングテープとか売っててもええやん。

このカジュアルさは、現在NORIさんが運営するフィットネスジム「加古川フィットネスベリーベリー」のコンセプトに繋がっている。

NORIさんが作る空間だからこそ

ベリーベリーは元々、NORIさんが週2回ほどレッスンを持っていたフィットネスクラブだった。2021年3月、この「ハピネス加古川」の閉店が決まった際、自分に何かできることはないかと考えたNORIさんは、クラウドファンディングで店を継続するための資金集めを計画する。

ちょうどその頃、初めてR-1グランプリで1回戦を突破したNORIさん。「R-1に優勝して500万円とったら、このジム引き継ぎますわ!」とハピネス加古川で豪語したときに、その場にいた人たちみんなが笑顔で拍手喝采してくれた光景が忘れられず、本当にやってみたいと思うようになったのだという。

たくさんの方が支援をしてくれ、その資金を元に改装などをして引き継いだのが「加古川フィットネスベリーベリー」だ。

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自分のジムとしてベリーベリーを構えてから、NORIさんの生活は変わった。9時~22時まで基本的にはジムに常駐。自分から仕事に出向いていく暮らしから、お客さんを待つ生活への変化に、最初は少し戸惑いも感じていたという。しかし、NORIさん自身がつくりあげる空間だからこそ、実現できることもきっとある。

「まだ会員さんの数は少ないけれど、平和な、とってもいいコミュニティができています。こないだお客さんが犬を連れてきてくれて。そういう安心できる場所になってると思えることが、今はいちばん嬉しいですね」

スバキリ一味で放つNORIさんの独特の存在感は、自分の感覚を信じ、腹をくくって進むことのできる彼だからこそのものだ。フィットネスジムでプロレス?講演会?縁日?―NORIさんは、これからどんな新しい世界を私たちに見せてくれるのだろう。

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取材・執筆―石原智子