「常に『しあわせだなぁ』って思ってしまって。大きい人間になりたいとか、そういう野望はないんです(笑)不機嫌でいることは、ホントにないと思う。都合のいい性格です(笑)」
写真が撮れるライターであり、WEBディレクターであり、週末はブライダルのサービススタッフの顔も持つゆみこさん。長男は大学生で、今は夫と次男と3人ぐらしだ。
事前に聞いていた「いつもだいたい幸せ」という言葉が気になって「たとえば、しあわせってどういう瞬間に感じるのですか?」と尋ねたら、嬉しそうに話してくれた。
ひとつめは、2022年12月25日。
ゆみこさんの48歳の誕生日であり、クリスマスでもあるこの日。
週末の夫とのランチに、普段はついて来ない中学3年生の息子をダメ元で誘ってみたら、誕生日だからか「いいよ」と言ってくれた。この時点でハッピー。
出先で大きなツリーを見た息子が「うちも出そうよ」と言ったので、家に戻ってから「たぶん世界一遅いクリスマスツリーだよね」と笑い合いながら、ツリーを引っ張り出してきて、いっしょに飾り付けた。そんな様子を、夫が微笑みながら見守ってくれている。
そんな瞬間が「ああ、しあわせだなぁ」、と感じたそうだ。
もうひとつ、こんなエピソードもある。
「母とスイスに旅行したとき、山で大型バスが立ち往生したんですね。運転手さんがカーブでハンドリングが上手にできなくて、もう、進むのもバックもできない、みたいな。
母はもう『私たちここで死ぬんだわ…』みたいに、絶望(笑)。
その時に私が言ったのは『お母さん!私たち今、将来ずっと思い出として話す出来事のなかにいるよ』。母からは『あんた私の娘じゃない』って呆れられました。」
1つめのエピソードは共感できる人も多いだろうが、アクシデントすら楽しむような視点は、誰でも持っているものではない。
「なんか『大変だ!』とか、『いやだなー』ってシーンに面したとき、くるりと視点を変えてみてしまうところがあるんですよね。『これを面白く考えるとどんな感じだ?』みたいな。努力してそうしてるというよりは、クセです。」
「しあわせ」や「ラッキー!」と感じるタイミングは人によって違うけれど、その回数が多いと人生の満足度は高くなるだろう。同じことが起こっても、捉え方次第で気持ちが変わるなら、プラスに捉えるほうが「お得」だ。
ゆみこさんの過去や感性に触れたら、日常がもっと輝いて見えるヒントが見つかるかもーー
そんな期待を持ちながら、ゆみこさんのストーリーを伺った。
「吾唯足知(われただたるをしる)」で「今」のありがたみに目を向けるように
一体いつから「日々幸せだ」と思えるようになったのか、お聞きしたところ「中学生くらいかもしれないですね」との答え。
ゆみこさんが中学生くらいのころ、材木屋を営む父親に教えてもらった言葉がある。「吾唯足知」、というものだ。京都にある龍安寺のつくばいに書かれている言葉で、意味は「私は、満ち足りていることだけを知っている」。
※つくばい…茶室に入る前に、手や口を清めるために水を張っておく石鉢
「父はゴリゴリ成長するぞって野望を持ったような経営者じゃなくて、今あるお客様を大切にすることで、お客様が増えていくような人でした」とゆみこさんは振り返る。
考え方のクセというものは、日頃から一緒に過ごす人の影響を多分に受けるものだ。一度聞いただけでは忘れてしまうかもしれないが、父はことあるごとに「吾唯足知」の話をしてくれた。「今この場がすごくしあわせであることを知る」というコトバは、父の生き方とともにゆみこさんの心に残った。
「今がしあわせだ」と自然に思える「しあわせセンサー」の感度の高さが、この頃から磨かれていったのだろう。
「ビアガーデンでも熱燗を注文するような父でした
(こちらは最初で最後の父との自撮り)」
茶道で学んだ「場を作り上げる」精神で積極的に
新卒入社1年目で1ヶ月休みを取ってイギリス留学。大好きなBTSを愛でるカラオケでは、いつもは履かないズボンを履き、友達と一緒に踊りながら歌う。今の仕事では文章を書いたり、写真を撮ったり、ディレクションをしたり、配膳スタッフをしたりもする。
「ワーキングホリデーに行けなかった思いを少しでも晴らしたかった、1ヶ月のイギリス短期留学。」
経歴や多彩な働きぶりを見ると相当アクティブなゆみこさんだが、「昔から積極性があったほうではない」という。小学校の通知表には「もっと積極的になりましょう」と書かれていたし、学校の授業でも「私は先生にさされませんように…」と目立ちたくないタイプだった。
しかし、「京都に住んでみたい!」と迷わず選んだ短大時代に「せっかく京都にいるなら」と始めた茶道が、ゆみこさんの生き方に大きく影響を与えることになる。
「茶道には一座建立(いちざこんりゅう)っていう言葉があるんですね。お客様は、ただお茶を飲めば良いわけではなくて。もてなす側も精一杯の心を込めてもてなすし、もてなされる側も『掛け軸はどうして選ばれたのですか?』とか『この器はどういうものなのですか?』とかを質問するんです。
その場が良い場になるように、自分がこの場でできる役割を全うしよう、みたいな。どの立場の人も、良い場を作り上げるために考えて行動するんです。」
「茶道部の合宿は、5日間毎日朝から晩まで稽古をするというものでした(笑)。2日めくらいで膝が死にます。(真ん中が私。ちなみにこの浴衣は今でも着ています。)」
招く者も招かれた者も、相手を思いやって心地よい場を作り上げる。
この考え方に感銘を受けたゆみこさんは、ぐんと積極的になったそうだ。どんな場面でも「良い場作りのためには、自分に何ができるか」を考えて全力を尽くす。
「MTGであれば、前のめりに発言しよう、とか、講義を聞くなら、きちんと相手にわかるように聞いてる素振りを見せよう、とか。
社会人になってからは、宴会の時に受け身の人が多い場であれば『率先して盛り上げよう』とか。宴会のたびに女将って呼ばれてましたね(笑)
『一座建立』の姿勢は、お仕事に限らず、人間関係などにも関わってくることだなぁ、と思います」
事前に石原さんからも聞いていたのだが、ゆみこさんは気遣いがものすごい。その上いつもゴキゲンでいる。そんな人が愛されないワケがない。学生時代の友人とも、社会に出てから出会った人とも、一度親しくなった人とは縁が切れずにずっと関係が続くそうだ。
採用や指示出しといったコミュニケーションが多いWEBディレクションの仕事をしていても、「いいのさんはライターさんとのやり取りも丁寧にしてくださっていて、安心してまかせられます」と依頼先からとても喜ばれている。
「ライターの仕事も、WEBの仕事も、サービスの仕事も、冊子やサイトや披露宴をみんなで作りあげる仕事。それもできる限りいいものにしたい。そのなかの自分の役割を、いい雰囲気で、全力で全うしたいと思って働いています」とゆみこさんは語った。
強みや得意は1つに限らない
8年働いた出版やイベントの会社を退職し、2019年に独立。ゆみこさんは「entowa」という屋号で、現在は個人事業主をしている。「縁」と「和」の文字が好きで、この名前にしたそうだ。スバキリ一味への加入も、前職の時からの「縁」だ(後述あり)。
「誕生日のサプライズが本気すぎる会社で、毎年幸せだったし、祝うときも楽しかったです!
この会社で経験したこと、出会った人は、今の私の宝物です。」
前職で社長の無茶振りに(笑)こたえてきたおかげで、ライティング、編集、撮影、企画とさまざまな経験があったものの、独立当初は「私はどれも中途半端だな」と思っていた。
だが、「得意がふたつみっつ、とかけあわされた強みが生かされる時代だ」というフレーズを何かで目にしてからは「1つのことを極めるのはかっこよくて憧れるけど、私はいろいろできることが強みと思えばいいんだな」と考えられるようになったのだそう。
ストレングスファインダーという強み診断で、34もある資質のなかで1位が「ポジティブ」。他の結果からも、コミュニケーションに強みがあることが改めて分かった。このことから「コミュ力も強みなのだな」と認識でき、それを活かして生きていこうとも思えたそうだ。
「得意なこと」や「好きなこと」は、一つである必要はない。
自分で自分の強みを認めてあげれば「私には何もない」という人よりも、いろんな話が舞い込んできそうだ。
「これまで関わってきた仕事の一部。書いたり撮ったり編集したり、本当にどの役割も好きです。」
ゴキゲンのレシピ
日々しあわせを感じながら過ごしているようすを聞き「ゴキゲン得意人(びと)ですね」と伝えると、ゆみこさんは「確かに、そうかもしれませんね!」と嬉しそうに笑った。「将来は映画『日日是好日』で樹木希林さんが演じていたような茶道の先生になりたい」とも話してくれた。
今も全力で楽しみ、未来にも楽しみを持ち、周りの笑顔まで増やしてしまう。
ゆみこさんのような、”ゴキゲン得意人(びと)”になるにはどうしたら良いのだろう?
「子どもの手も離れ、仕事のない週末は夫とランチにでかけます。話題はもっぱら老後のこと(笑)」
1つめは、ポジティブ思考を鍛え上げることだ。ポジティブは、後天的に身につけることができるもの。イヤなこと、アンラッキーなできごとが起こっても「どう捉えたら面白いかな?」「プラスになるかな?」と変換する訓練ができる。ゆみこさんが「クセ」と言ったように、身についてしまえば自然にプラス思考ができるようになるハズだ。
2つめは、受け身をやめて常に自分の役割を考えて、みずから動くこと。ゆみこさんは日々、良い人達に恵まれてハッピーだと話してくれたが、何もせずにそうなったわけではない。ゆみこさん自身が「一座建立」の精神でアクティブに働きかけることで、楽しい空間や居場所を作り上げているし、引き寄せているのだ。
シンデレラだってラプンツェルだって、ただ日々に絶望していたわけではなく、そのときの自分にできることを見出して行動したから、幸せな未来にたどり着けた。「しあわせは歩いてこない。だから歩いてゆくんだね」とは昔の人も歌っている通りである。
自分の好奇心に素直なこと、”推し”を持つこと、強みを認めてあげること、などなど、ゆみこさん流”ゴキゲンのレシピ”は色々あるだろうが、「ポジティブ思考のクセ付け」と「自分で積極的に動くこと」の2つはきっとマストだな、と感じた材料だ。
ゆみこさんの「ゴキゲン」な人生はこれからも、きっとゆるやかに周りを巻き込んでいく。そうしていつの間にか、笑顔の人を増やしていくのだろう。
ゆみこさんの生き方を通して、”ゴキゲンのレシピ”がこれからも広まっていき、世の中にもっともっと笑顔の人が増えることを願う。
Another story 〜「キワモノ」に見えたスバキリ一味へ〜
クセが強いスバキリ商店のポスター
2021年の前半に一度、助っ人として一味の仕事を手伝ったこともあるゆみこさん。当時は新しい仕事をプラスする余力がなかったので、正式に加入はしなかった。
2022年になり他の仕事も落ち着いたタイミングで、前職の時から繋がりのある石原さんから「ライター募集してるのだけど、どうかしら」とお誘いがあったという。
「ほんとに失礼なんですけれど(笑)スバキリ一味って『色が強い』じゃないですか。スバキリマンとか、決してそこがメインじゃないんだけど。
だからお声がけいただいた時も『私はここになじめるのかしら…』ってちょっと不安にも思ったんです。でも、、信頼してる智子さんや堀中さんが長く続けてるから、きっと”キワモノ”じゃない良さがあるんだろうな、って。」と勇気を出して飛び込んだのだそう。
「カレーのパッケージの中に入る自信ないなぁ」とも感じていた
「この数週間で、Discordで皆さんのやり取りを見て雰囲気の良さがわかって。好きになりました。それぞれがちゃんと一生懸命だなぁ、って思うんですよね。適当に『ココだけが私の担当だ』って線を引いてる感じもなくて。」
何かをやりたい人のサポートも好きだし、みんなで一つのことをやっていくのも好きだから、やっていけるかな、となったそうだ。
果たして、一見キワモノ(?)の一味に飛び込んだゆみこさんは、無事になじんでいけるのか―――!?
心配は……ぶっちゃけ、あまりしていない。
取材・執筆 上原佳奈