スポットライトを浴びるより、当てる人でありたい

メンバー紹介

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鎌苅さんが「スバキリ一味」のメンバーとなったのは、“ひょんなこと”がきっかけだった。

昨年、既にメンバーとなっていた田邉さんが、自分の仕事を分担してくれるサポートメンバーをSNSで募集した。それを見て、直感的に「私にも何かできるかも!」と感じて手を挙げたという。

鎌苅さんと田邉さんは、子どもの英語塾が一緒で仲よくなった「ママ友」だったが、話してみると高校の先輩と後輩という関係も判明。共通の友人がいたこともあり、SNSでお互いの活動などを共有していた。

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とは言え、仕事の具体的な内容も知らないで応募したというから、やってみたらなんか違う……、と思ってもおかしくない始まりだった。しかし、鎌苅さんに仕事の感想を聞いてみると、とても楽しそうな表情でこんな答えが返ってきた。

クライアントもメンバーも、とにかくいろいろな人がいて、すごく面白い! 世の中には本当に多様な仕事があって、まだまだ自分の知らない世界が広がってるんだな、と実感しますね

スバキリ一味特有の肩書「ミギー担当」とは

鎌苅雅子さんのスバキリ一味での仕事は、通称「ミギー担当」。ミギーとは、プロジェクトや業務の「右腕」となって手取り足取りサポートするという意味で、メンバーの田邉さんが作った造語だ。スバキリ一味内の“ミギー業務”は、プロジェクト実施が決まった直後のクライアントとのやりとりが中心となる。

クライアントに様々な情報を提供してもらい、プロジェクトページを作成する。そして、参考HPやSNS、資料など、ライターやリターン担当のための情報を整理する。内容的には、淡々と作業をこなしていくこともできるが、鎌苅さんは、クライアントから提示されたHPなどの情報に、ほぼ全て目を通しているという。

クライアントとやり取りしていると、この人の活動ってどんな内容なのだろう、と気になっちゃうんですよね。実際にアクセスしてさらに興味が広がることもあって、とても勉強になります。完成したクラウドファンディングのページも、ほとんど読んでいます。自分が担当したものがどんな仕上がりになっているのか気になるし、単純に読むのが楽しくて」

いろいろなことを面白がれるというのは、とても貴重な「才能」だと思う。「楽しそう」と思ってすぐに飛び込める人は、いつでも自分の力で人生を前に進められる。鎌苅さんの明るい雰囲気の源も、この「何でも楽しめる」精神なのかもしれない。

子どもの頃から「サポート気質」

◆小学生なのに先生の助手!? ピアノ発表会
こんなふうに、偶然スバキリ一味では「ミギー担当」となった鎌苅さんだったが、振り返ってみると、小学生の時から「誰かをサポートする」役割を担うことが多かったそう。

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「小学校1年生からピアノを習っていたんですけど、6年生の発表会では、既に先生のサポートをしていました。幼稚園生を取りまとめたり、さらには一部の子と連弾(一緒にピアノを弾くこと)したり。本来は先生の役割ですが、先生も一人では大変だったんでしょうね(笑)」

まさか、こんなに小さい頃からサポート役を任されていたとは……。そしてこの「サポート気質」は、大人になっても大いに発揮される。

◆社会人では「医療事務」で走り回る日々
社会人では、医療事務の仕事についた鎌苅さん。当時はまだ電子カルテではなく、手書きの紙カルテの時代だった。

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「ドクターが書いたことを読み解かないと、会計できなかったんですよね。当時の上司がかなりスパルタだったこともあり、医療用語や薬のことも必死で勉強しました。あと、救急隊からかかってくる電話の対応もしていて。電話の後は急いで関係する部署に連絡を入れて、カルテを作る(探す)など、受け入れ環境を整えていました」

まさに、医師や看護師を側面支援する仕事だ。
とにかく忙しくて大変な業務だったが、患者さんから「ありがとう」と言われたり、周りのスタッフから感謝されたり、「役に立っている」という実感があった。

そこで8年キャリアを積んだ後、結婚で働き方を変えるために小さなクリニックに転職。その後妊娠を期に仕事を辞め、専業主婦になった。

◆「MCFオーケストラとちぎ」でボランティアスタッフを開始
実は鎌苅さん、ピアノにとどまらず、小学校・中学校は吹奏楽部、高校ではオーケストラ部で活動していた「音楽家」の一面もある。

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社会人になってからもアマチュアのオーケストラ団体に入り、ビオラを演奏していたそう。出産後は活動を休止していたが、ある日発足間もない「『MCFオーケストラとちぎ』の事務局ボランティアスタッフ募集」というチラシを目にした。2014年のことだった。

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「子どもの手もだいぶ離れてきていたので、そろそろ何かやりたいと思っていた頃でした。アマチュアで活動していた頃、演奏以外の運営も全部自分たちでやっていたので、その時の経験も生かせそうだし、好きな音楽に関われるのもいいかなと思って」

鎌苅さん自身も、長年演奏してきた経験がある。演奏する側にまわりたい、とは思わなかったのだろうか?

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「私、『自分自身がステージに立ちたい』という願望は、あまりないんです。それよりは、『ステージにあがる人にスポットライトを当てたい』という気持ちが強いかな。ライトの当て方次第で、そのステージが良くも悪くもなる。だから私は、ステージがより素敵になるように、うまくライトを当てられるようになりたいんです」

そう話してくれる鎌苅さんの表情は、やわらかいのに好奇心に満ちていて、「サポートへのよろこび」にあふれていた。鎌苅さんは、小さい頃から自分のことをよくわかっていたようだ。自然と自分に合う道を選び取り、それぞれの場所でその力を遺憾なく発揮してきたことがよくわかる。

目の前のことを楽しみながら、自分の得意も発揮する

「MCFオーケストラとちぎ」のボランティアスタッフの仕事は、コンサートの企画から会場の決定、演奏する曲決め、楽譜の用意、さらにはチラシ配布、チケット販売など、多岐に渡る。他に学校の音楽鑑賞教室やイベントでの依頼演奏のスタッフの仕事もあり、ボランティアとはいえ一部の仕事には時給が発生、アルバイトやパートに近い感覚でもあった。

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これを仕事にしていけたら……。そう思い始めていたが、新型コロナウィルスの流行で、流れがガラっと変わってしまった。コロナ禍になって演奏会は軒並み中止。2021年になって何とか定期コンサートを企画・開催したが、緊急事態宣言下のなかでの準備や開催は、本当に大変だった。「いつコロナの流行が拡大するかわからない、収束も見通せない状況では、このまま以前のような活動をやっていくのは難しいなと思うようになりました」と鎌苅さん。

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自分のなかの中心的な活動が縮小され、何となく描いていた未来が崩れてしまったら、もっと焦ったり、暗い気持ちになったりしてしまいそうだ。でも、鎌苅さんの語り口から、悲観的な雰囲気は一切感じられない。

「スタッフとしてやりがいをもって活動はしていましたが、その他にも子育てやPTAなどいろいろやっていたから、それだけで『自分の柱がなくなった』という感覚はあまりなかったかな」

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「うちは一人っ子ということもあり、子ども関連のイベントは、すべて一回きりなんです。だから、親である私も、一緒に思いきり満喫しようと思っていて。小学生になってからは、長期休暇は体験教室や講座を片っ端から調べて、子どもが興味を示したものに一緒に参加していました。化石堀りや林業体験、博物館やイベントにも行きましたね。子どもにいろいろ経験させたいという気持ちもあったけれど、結果的に私自身もかなり一緒に楽しんでました(笑)コロナ禍でも、親子で漫画やアニメにはまったり、一緒に楽しく出来ることは案外いっぱいあります」

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いつも目の前にあることをとことん楽しむ鎌苅さん。だからこそ、「できなくなったこと」ばかりにとらわれないし、嘆かない。ボランティアスタッフの仕事が少なくなったからこそ、「スバキリ一味」という新しい仕事にも出合うことができた。そう前向きに捉えることができるのだろう。

「専門性」よりも大切な、人生を切り開く力

「今」という大切な時間を楽しみながら、自分のおかれた場所で、得意技である「サポート力」を発揮する鎌苅さん。
医療事務の仕事、MCFオーケストラとちぎの事務局、育児やPTA、そしてスバキリ一味。楽しそうと思ったことはもちろん、入り口は“やらなくてはならないこと”でも、「楽しまなくちゃもったいない」という精神で、自分にとってワクワクすることに変えてしまう。

(11)2020コンサート

けれど、もし自分だったら……と考えたとき、どうしても質問してみたくなった。「これからは、何か一つの分野にしぼりたい、と思ったりしませんか?」と。

私の場合は、しぼってしまったらつまらないんです! この世の中、どこに何が転がっているかわからない。だから常に面白いことをキャッチできるように、いろいろなことに興味を持って、自分を開いておきたいんです

この言葉をきいて、ハッとした。社会人になって、自分に「専門性」がないことにがく然とした。育児で思うように仕事ができなくなったときも、「これ」という分野や能力がなく、いつまで仕事を続けていけるのかと恐ろしくなった。だからこそ、「専門性」こそが大切だと思っていた。

でも、仕事を続けていくために、人生を切り開いていくために本当に必要なのは、「自分のまわりにある“面白いこと”に気づいて、それを自分と融合させ、楽しみながら仕事につなげていく力」なのかもしれない。

「専門性を身につけなくちゃ」「あれもこれもしなきゃ」と自分を追い詰めてばかりいたら、せっかく周りにある面白そうなこと、自分に向いているかもしれないことを見逃してしまうから。

(10)2019箱根旅行

自分を縛らず、目の前の“楽しい”を見つけようとする気持ちさえあれば、ライフステージが変わっても、予想外のことが起きても、前向きに人生を開拓していける。鎌苅さんの姿勢から、そんなことを教えてもらった。

取材・執筆 川崎ちづる