「事務員のまま、変われる」―自己成長を叶える副業という働き方

メンバー紹介

ライター 白銀 肇 (しろかね はじめ)(11)
スバキリ一味に参加するメンバーの多くはフリーランスであるが、会社員として働く傍ら副業として参加しているメンバーもいる。ライターのゆーさんもそのひとり。平日昼間は商社の営業アシスタントとして勤務し、夜や週末に、ライティングやSNS運用の副業を行う。

24時間を自分のペースでは使えないというハンデを、副業にも真摯(しんし)に向かい合う熱量でカバーするゆーさんの仕事ぶりに対して、スバキリ一味内での信頼は厚い。本業の休憩時間にクライアントや仲間からの連絡への返信をし、就寝直前に入った修正依頼に対しても「これを逃すと本業の勤務中お待たせしてしまう」と作業に入る。

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新卒で就職した商社に勤続20年。スバキリ一味の団長小西さんとの面談では「今の会社には、定年退職まで勤めあげます」と伝えて驚かれたという。フリーランスになるための準備として副業をはじめる人も多いなか、ゆーさんのスタンスは明確だ。

「例えば、夫さんのグチを誰かに言ったとして、そしたら “別れたらええやん”みたいに言われたら、ちょっとムッとしません?そういうことちゃうねん、好きは好きやねん、みたいな」。「本業」を辞めない理由をそう語る。

今の会社が嫌いなわけじゃない。でも、このままでは嫌だ。そう思って動き、「忙しいけれども充実感がある」今の生活にたどり着いたゆーさんが歩んできた道は、自分の生活に何となくのモヤモヤを感じる人にとって、大きなヒントとなるだろう。

ネットの世界に踏み出して

就職氷河期のさなか、職安を通じて事務職として採用が決まったのは、従業員100人未満のアットホームな雰囲気の商社だった。安定した業界でもあり、少人数に深く関わる仕事の仕方は、ゆーさんの肌にあっていた。しかしそれは、裏を返せば「ぬるま湯」の環境でもあると、会社に慣れると感じるようになった。

事務職は結婚したら辞めるもの、とされていた空気が時代とともに少しずつ変わり、ゆーさんの世代あたりから、仕事を辞めずに続ける女性が増えてきた。「60代になっても、今と同等の仕事ができるだろうか?役に立たない人になってしまったらどうしよう」―20代の頃から焦りに似た気持ちを覚えていたのだという。自己啓発本を読んだり、社内で新しいことにチャレンジしたりするものの、このままではマズいという価値観を共有できる人も身近にはおらず、会社のなかだけで何かを劇的に変えるのは難しい、と感じていた。

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収入が安定している/長時間労働を強いられない/人間関係が良好/年齢を重ねても働ける―このような「いい職場」に運よく在籍できた場合、そこに何の疑いも持たず、日々を送る人は多いだろう。しかし、ゆーさんのように、自分の中に持て余す力を自覚し、動き出すか否かで、何年かのち、その人の人生の幅はまるで違ってくる

将来への危機感を覚え、自己成長を望むゆーさんは、会社員に軸足は置いたまま、プラスαの部分を外に求めることにした。勤める会社では副業は厳しく禁じられていたため、何かを変えたい一新で、2018年、オンラインサロン「はあちゅうサロン」に飛び込んだ。

入って1年目は、そこにいるだけで精いっぱいだった。オンラインでつなっがった人たちはキラキラして見えて、自信を失い、精力的に活動している人を、遠くから眺めているだけだった。

しかし、この一歩を踏み出したことで、ゆーさんの世界は確実に変わりはじめた。Twitterやnoteで自ら発信を始めたことで、すてきだと感じる人とたくさん知り合えた。そこには自分を高めようと努力し、語り合える仲間がいた。noteを更新するチャレンジは250日続き、読んでくれる人も少しずつ増えて、書くことが全く苦ではないという自分の資質にも気がづいた。

ゆーさん|note
OLやってるアラフォー事務員。これからの働き方と、自分の価値について考えたくてオンラインサロンに入ってみたり、SNSで発信したり、副業に挑戦してみたり。noteが思考の棚卸しの場になればいいなー。

時給に換算できない価値を知って

2020年、勤務先の会社で副業が解禁になったのを機に、ゆーさんはクラウドソーシングの大手サイトに登録。

自分にできる仕事を…と探し、最初にたどりついたのは「きくらげの料理レシピを考案する」という仕事であった。

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きくらげとカニカマの天津飯 | 杜のきくらげ杜のきくらげ
 レシピ考案者さんからのコメントあっさりした味付けで夏でもするする食べられます。コリコリしたきくらげの食感がポイントです。 材料(2~3人分)乾燥きくらげ 1枚竹の子の水煮 60gカニカマ4本玉子 3個青ねぎ 5cm程度ごま油 小さじ1☆あんの材料鶏がらスープの素(顆粒)大さじ2水 1カップ日本酒大さじ2砂糖 大さじ2...

料理好きだったゆーさんにとってはぴったりの仕事であったが、時給換算するとなんと100円以下。1文字1円が相場のクラウドソーシングの仕事では、400字の原稿の作成に4時間かかると時給100円になるのだ。

しかしゆーさんはこの仕事に、時給には換算できない価値を感じていた。

「本業での稼ぎは、人が用意してくれた仕事に対して“はい!頑張ります!”という感じで得られるお金。一方副業は、400円であっても、自分が動いて0から生み出しているという感覚があった」のだという。

クラウドソーシングで副業をしていくために、とにかく実績作りを、とこのきくらげのレシピ考案の仕事を「気合を入れて」20回ほどこなした。

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副業に取り組む様子をSNSで発信していると、すでにスバキリ一味でライターとして活動していたのましほさんから、スバキリ一味でライターをしてみないかと声がかかった。

のましほさんとは、はあちゅうサロンで知り合った。彼女はサロンの関西部でも中心的人物で、遠くからその活躍を眺めていたゆーさんにとっては憧れの人。そんな人に声をかけてもらったという事実は舞い上がるほど嬉しかったという。

もしきくらげの仕事が副業ではなく本業だったら…?きっと20回も続けて実績となる前に「割のいい仕事」を探して辞めてしまっていただろう。ゆーさんにとって本業で蓄えた経験・自信・報酬は、自分の可能性を切り開いていくための土台となっていたのだ

“苦手”の向こう側

スバキリ一味でライターをするようになって約1年。「数カ月前までは、インタビューする前はいつも吐きそうなくらい緊張していた」のだという。ライティングの経験は積んでいたものの、インタビューはスバキリ一味に加入してからのスタートだ。

「そんなに緊張するのに、辞めてしまおうと思わなかったのですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「仕事は“楽しい”が100%ではなく、いろいろな要素がまじりあったものだと思っているんですね。スバキリ一味の仕事はいろいろな人と知り合えてとても面白いから、“苦手”だからこの仕事できません、というのはもったいないなと思ったんです。本当に嫌なことはする必要はないけれど、苦手と嫌いはイコールではないと思うんです」

“好きを仕事に”は、近頃本当によく聞く言葉だ。好き=楽しい=初めから得意なこと、と思いがちだけれども、それだけではないことを、ゆーさんの言葉に気づかされた。たとえ困難があっても、魅力を感じるものに向かい合う覚悟ができると、人は「好き」の幅をぐんと広げることができるのだ。

自らを「継続の鬼」と称するゆーさんは、「続けることで、“苦手”の先の“楽しさ”が見えてくる」と表現する。スカイプで2週に1度受けている筋トレのパーソナルレッスンも、運動は苦手だが、やっていると体調がいいし、苦手のその先にある楽しさをつかみたいと続けている。本業で「ぬるま湯」につかっていることを自分に許さなかったゆーさんらしいエピソードだ。

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忙しさと心の余裕

スバキリ一味の案件の他にも、2020年から参加している「おうち秘書サロン」でのSNS代行の副業も手掛けるゆーさん。平日は本業のあとに2~3時間を副業に割き、土日が勝負だという。

24時間365日のスケジュールを自分で組めるフリーランスの立場から見ると、たいそう大変そうに感じてしまうが、ゆーさんはこう答える。

「以前は時間の余裕はあったけれど、自分のやる気や学んだことを実践する場がなくて、焦りばかりがありました。今は仕事漬けで大変だけど、心の余裕はありますね。心のよりどころが複数あるからでしょうかね」

【自由すぎるのも不自由と感じるタイプ】と自己分析をするゆーさんにとって、フリーランスではなく会社員をしながら副業をするというスタイルは最適なのだ。

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「事務員のまま、変われる」―会社員に軸足は置いたまま、自分が望むものをプラスしていくのは、とても賢いやり方だし、本業にもよい影響をもたらしている。

「勤め先の事務職の後輩が、かつての私のように将来を不安に思わないように、楽しそうに働いているところを見せたいんです」。そう語るゆーさんの表情を見て、私が会社員時代、こんな先輩に出会っていたら、きっと自分の中の世界はうんと広がっただろうと、ゆーさんの後輩たちを羨ましく思った。

会社の枠に縛られず、自分の能力を世間に還元していくゆーさんのような働き方は、これからの会社員のスタンダードになるのかもしれない。

 

取材・執筆―石原智子